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東京高等裁判所 昭和48年(行ケ)71号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が、いずれも原告ら主張のとおりであることは、当事者間に争いがないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 引用例の記載内容及び本願発明と引用発明との相違点が本件審決認定のとおりであることは、いずれも原告らの自認するところであるところ、本件審決は、本願発明と引用発明との右相違点の判断に当たり、両者の処理面の構成上の相違及び作用効果についての認定ないし判断を誤り、ひいて、本願発明をもつて引用例から容易に発明をすることができるとの誤つた結論を導いたものであり、この点において違法として取り消されるべきである。すなわち、

前示本願発明の要旨に成立に争いのない甲第三号証(手続補正書及び本願明細書)を総合すると、本願発明は、セメントに粉砕珪酸鉱物を所要の割合混合して成型したコンクリート製品の表面を、ガスバーナーの火焔により、一、八〇〇~二、〇〇〇℃の温度で五〇~六〇秒加熱することにより、当該表面にガラス質被膜を形成させることを特徴とするコンクリート製品のガラス質被膜焼付工法であり、これによると、コンクリート製品の表面にガラス被膜を形成するに要する時間が微小であるため、量産に好適であるほか、加熱により、コンクリート本体の強度を減少させることがなく、また、コンクリート製品の表面がガラス質被膜で覆われるため、露天化作用に侵され難い等の効果を奏するものであることが認められるところ、一方、成立に争いのない甲第二号証(引用例)及び前示原告ら自認にかかる引用発明の記載内容に徴すれば、引用発明は、珪酸質製品の表面に、粒度を異にする天然又は人工の多孔性珪酸質骨材とセメント及び可溶性珪酸塩類の混合したものを吹き付け又は圧塗りし、最表面を可及的多孔性珪酸質骨材が相連綴し、その間の小隙は低火度にて溶融する釉薬剤あるいは硝子粉を含む溶剤とを混和して作つたモルタルを強固に圧着させ、これを乾燥後、その表面を電弧焔で刷毛引き状に急激な加熱を行つて溶融せしめて、施釉する方法であり、これによると、セメントの膠着性を焼害することなしにセメント製品の表面に溶剤釉薬を溶着することを可能にし、防水、防火等耐久性を増進しうる効果を奏することを認めることができ、したがつて、引用発明における加熱する表層は、多孔性珪酸質骨材と低火度で溶融する釉薬剤あるいは硝子粉を含む溶剤とを混合して作つたモルタル層であり、セメントモルタル層でないことが明らかであり、この認定を左右するに足る証拠はない。叙上認定したところによると、本願発明と引用発明の加熱層の構成は、本願発明においては、セメントと粉砕珪酸鉱物を混合したものであり、釉薬剤ないし硝子粉を含む溶剤を塗布しないものであるに対し、引用発明のものは、セメントを用いることなく、珪酸質骨材と釉薬剤又は硝子粉を含む溶剤との混和物である点(本願発明が、引用発明と異なり、釉薬剤又は硝子粉を含む溶剤を用いないことは、被告の認めるところである。)において、両者相違するものであり、右構成の相違の結果、加熱を行つた場合、本願発明においては、製品の表面がガラス質被膜で覆われるに対し、引用発明においては、溶剤釉薬を溶解せしめるものであり、その効果においても、両者全く異なるものというべきであるから、本願発明が引用例から容易に発明をすることができたものとは、到底認めえない。

被告は、引用発明のモルタル中に用いられる主たる材料は、本願発明において用いられる骨材と同じ多孔性珪酸質骨材及びセメントであるから、加熱を行つた場合、その表面において奏される効果は、本願発明のものと実質上異ならない旨主張するが、前認定のとおり、引用発明のモルタルは、多孔性珪酸質骨材と釉薬剤又は硝子粉を含む溶剤との混和物であり、セメントモルタルではないから、右主張はその前提事実において誤つているのみならず、効果においても両者異なること前認定のとおりであるから、被告の右主張は採用しうる限りではない。

(むすび)

三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告らの本訴請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由があるものということができる。よつて、これを認容する。

〔編註〕 本件における当事者の主張は左のとおりである。

請求の原因

原告ら訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。

一 特許庁における手続の経緯

原告山路俊一は、昭和四二年四月七日、名称を「セメントコンクリート製品のガラス質被膜焼付工法」(後に「コンクリート製品のガラス質被膜焼付工法」と訂正)とする発明につき、特許出願をしたが、昭和四五年二月一八日拒絶査定を受けたので、同年五月一日、これに対する審判の請求をし、昭和四五年審判第四、〇八九号事件として審理され、右審判係属中の昭和四七年四月三日、本願特許を受ける権利の一部を原告遠藤薫に譲渡し、その旨特許庁長官に届け出たが、昭和四八年一月三一日、「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は、同年五月二三日、原告らに送達された。

二 本願発明の要旨

セメントに対し粉砕珪酸鉱物を所要の割合で混合して成型したコンクリート製品の表面を、ガスバーナーの火焔により、一、八〇〇~二、〇〇〇℃の温度で五〇~六〇秒加熱することにより、当該表面にガラス質被膜を形成することを特徴とするコンクリート製品のガラス質被膜焼付工法

三 本件審決理由の要点

本願発明の要旨は、前項掲記のとおりと認められるところ、特公昭三二―九、七八一号公報(以下「引用例」という。)には、珪酸質製品の表面に粒度を異にする珪酸質骨材とセメント及び可溶性珪酸塩類の混合物を塗布し、最表面を可及的多孔性珪酸質骨材が相連綴し、その間の小隙は低火度にて溶融する無機質の小粒子が填充された状態とし、これを乾燥後、電弧焔で刷毛引き状に急激な加熱を行つて施釉する方法の発明(以下「引用発明」という。)が記載され、本願発明と引用発明を対比するに、本願発明では、粉砕珪酸鉱物を所要割合含むコンクリート製品の表面を、ガス焔で直接加熱してガラス質被膜を生成せしめているに対し、引用発明では、基質の珪酸質製品上へ、珪酸質物を含むモルタル層を作り、その表面を電弧焔によつて溶融するものであり、処理面の構成並びに加熱源において、両者は相違する。しかしながら、引用発明に示されたように、ガス火焔による加熱が不適当なことは、急速加熱をなしえなかつた点にあり、急速に高温加熱を可能にしたものであれば、加熱手段としてガス火焔が引用発明における電弧焔と作用効果上同等であることは容易に想到しうる事項と認められ、また、本願発明におけるコンクリート製品は、粉砕珪酸鉱物を所要割合含むものであるが、引用発明における塗布層混合物も、天然又は人工の多孔性珪酸質物の小砕片を骨材とするセメントモルタルであり、本願発明の実施例の火山灰もその骨材の一実例というべきものであるから、本願発明は引用発明のモルタルを原料としてコンクリート製品を作つたものに相当すると認められ、この製品に対し急速高温の短時間加熱処理を施すことにより、その表面層が溶融被膜を形成するものと認められるから、本願発明が引用発明と構成上相違しても、その作用効果に著しい差異があるものということはできない。したがつて、本願発明は、叙上の点より引用例に基づいて容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第二九条第二項の規定により特許を受けることができない。

四 本件審決を取り消すべき事由

引用例に記載された引用発明の技術内容及び本願発明と引用発明との相違点が本件審決認定のとおりであることは認めるが、本件審決は右の相違点についての認定ないし判断を誤り、ひいて、本願発明をもつて引用例から容易に発明をすることができるとの誤つた結論を導いたものであり、違法として取り消されるべきである。すなわち、

1 本件審決は、本願発明と引用発明との処理面の構成が相違することを認めながら、「本願発明におけるコンクリート製品は、粉砕珪酸鉱物を所要割合含むものであるが、引用発明における塗布層混合物も、天然又は人工の多孔性珪酸質物の小砕片を骨材とするセメントモルタルであり、………本願発明は、引用発明のモルタルを原料としてコンクリート製品を作つたものに相当する」としたが、この認定は誤りである。引用発明の塗布層混合物ないしモルタルは、「天然又は人工の多孔性珪酸質物の小砕片を骨材とするセメントモルタル」ではない。引用例によると、引用発明の塗布層混合物ないしモルタルすなわち、処理面は、「可及的多孔性珪酸質骨材が相連綴し、その間の小隙は低火度にて溶融する無機質の小粒子が填充された状態のもの」であり、更に、これを詳述すると、「多孔性珪酸質の天然又は人工の骨材」と「低火度で溶融する釉薬剤あるいは硝子粉を含む溶剤」とを混合して作つたモルタルである。これに対し、本願発明におけるコンクリート製品は、セメントと粉砕珪酸鉱物との混合物であり、引用発明における「低火度で溶融する釉薬剤あるいは硝子粉を含む溶剤」を含むものではない。しかして、本願発明のコンクリート製品は、加熱により粉砕珪酸鉱物とセメントとの混合表面を溶解し、粉砕珪酸鉱物の酸性とセメントの塩基性との作用で、ガラス質の被膜を形成するものであるに対し、引用発明の珪酸質製品は、表面の低火度にて溶融する溶剤釉薬が加熱により溶融被膜を形成するものである。以上のとおり、本願発明が釉薬を塗布することなく、珪酸質製品の表面を露呈させたまま、直接加熱するに対し、引用発明は、釉薬層を加熱するものであり、両者の処理面は、その構成を異にし、したがつてまた、加熱によつて形成される溶融被膜の生成及び性質において、両者格段の差異があるものというべく、作用効果において重大な相違を招来するものである。

2 本件審決は、加熱源の相違についての判断として、「急速に高温加熱を可能にしたものであれば、加熱手段としてガス火焔が引用発明における電弧焔と作用効果上同等である」としたが、ガス火焔は、供給酸素を調整することにより、酸化、還元いずれの成分の焔ともすることができ、したがつて、本願発明によれば、酸化あるいは還元のいずれかを任意選定し、同じ組成の処理面の発色を製品毎に変え、多様化できるに対し、引用発明における電弧焔は酸化焔であるから、同じ組成の処理面である限り各製品が同様に発色し、その効果において、本願発明の場合とは異なるものがある。殊に、本願発明は、コンクリート表面をガス火焔により、一、八〇〇~二、〇〇〇℃の高温で、五〇~六〇秒という短時間だけ加熱し、これにより表層部分にガラス質被膜を形成するものであり、そのコンクリート製品は、表層部分以外の内部を焼害することがないという効果を挙げうるものである。これに対し、引用例には、ガス火焔によりコンクリート製品の表面を一、八〇〇~二、〇〇〇℃で五〇~六〇秒加熱することについて示唆する記載がないのみならず、ガス火焔を使用できない旨の記載がある。また、ガス火焔と電弧焔とでは、作業性、経済性においても格段の差異があるものというべきである。

被告の答弁

被告指定代理人は、請求の原因に対する答弁として、次のとおり述べた。

原告ら主張の事実中、特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告ら主張のとおりであること、並びに引用発明が、原告ら主張のとおり、低火度の釉薬剤あるいは硝子粉をも含ませている点において、本願発明のものとその構成を異にすることは認めるが、その余は争う。本件審決の認定ないし判断は正当であり、原告ら主張のような違法はない。

本願発明と引用発明とは、その構成において、原告ら主張のとおりの相違があるものの、引用発明のモルタル中における主たる材料は、本願発明において用いている骨材と同じ多孔性珪酸質骨材及びセメントであるから、加熱を行つた場合、その表面において奏される効果は、本願発明のものと実質上異ならないものであり、その作用効果に両者顕著な差異はない。また、加熱源について、引用例では、「焔の勢が弱く而も一、五〇〇℃以上の表面温度が急激に得られる」という要件が必要であり、ガス焔は、この点で不適であると記載されているが、この要件さえ満足することができれば、コンクリート製品の表面処理用加熱源として、電弧焔を用いても、あるいはガス焔を用いても、その奏する作用効果に格別の差異を生じないものとみるべきである。本願発明は、加熱温度と時間を限定しているに止まり、上記の要件については格別の限定はなく、僅かに、実施例中で、「特殊設計の燃焼ガス用のバーナー」が用いられるとの記載があるのみであるから、短時間に高温度で加熱を行うことの必要性は、本願発明においても、引用例においても同一とみられ、本願発明のように、加熱温度及び時間の範囲限定は、引用例の上記要件のうち「一、五〇〇℃以上の表面温度が急激に得られる」熱源の使用から、容易に想到しうる程度のものというべく、また、上記要件のうち「焔の勢が弱く」を満足するガスを燃焼させる手段が、本願明細書中に明示されていないため、ガス焔を用いる本願発明が電弧焔を用いた引用例と異なる作用効果を奏するものということはできない。

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